物理の研究の備忘録

高エネルギー物理学とかいうマニアックな研究分野の博士課程にいるわたしの備忘録。主にPCの設定とか

なぜ加速器を使うのか?〜素粒子と初期宇宙〜①

さて、ここでは加速器素粒子についておおまかな背景を述べる。

僕は原子核衝突実験の人なので、だいぶそっち方面に偏った説明になるかもしれない。

 

加速器の話

スイス、フランスの国境付近に CERN(欧州原子核研究機構)と呼ばれる研究所があり、せるんとか呼ばれている。CERNにはLHCと呼ばれる山手線一周ほどの巨大な円形加速器がある。

LHCは多くの国と研究機関が力を合わせて1兆円もの大金をかけ作られた大規模なものであり、小さな小さな粒子をほぼ光速度まで加速、衝突させては、世界中の物理学者がキャッキャウフフと喜んでいるのだ。

LHCだけでなく世界中に様々な加速器があり、日本にもJ-PARCやKEKと呼ばれる加速器がある。ここではその種類については詳しくは述べないが、僕が言いたいのは世界中の科学者がこぞって加速器をつくっては高いお金をかけて実験しているということだ。

なぜこんなことをするのだろうか?

一般の人にとっては彼らは気が狂っているとしか思えないだろう。またはお金の無駄遣いにしか思えないだろう。

ここではなぜ彼らがそこまで加速器に熱中するのかを言いたいと思う。

 

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CERNの上空写真。加速器は地中に埋まっているので直接は見えないが、とにかくでかい。

 

原子と原子核の話

加速器の話をいったんおこう。

「物質の最小の構成要素はなにか」というのは人類が長い間ずーっと追い求めてきた課題である。誰もが一度は考えたことがあるのではないだろうか?

小学校ですべての物質は原子からできていると習うだろう。

といっても原子も最小の構成要素ではなく、原子はさらに原子核とその周りを回る電子から成る。

原子核はさらに陽子や中性子からできていて、陽子の数で原子の種類が決まる。

例えば水素なら陽子が一個だし、炭素なら12個である。

中性子の数は関係ないのかって?

まったく関係なくはないのだが、原子の性質はほとんど陽子で決まる。

その理由は中性子電荷を持たないが、陽子は+1の電荷を持っていることに起因する。

原子は全体で電荷中性になるのが安定になるため陽子と同じ数だけ電子が外側を回っている。化学反応というのはざっくり言えば電子をやりとりする反応なので、陽子の数=電子の数=原子番号 であり、これが原子の種類を決めることになる。

ここらへんは主に化学の話で、一般の物理を専攻としていない人が学校で習うのはこのへんまでだろう。

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↑原子のイメージ、中国電力HPより

 

素粒子の話

陽子や中性子をまとめて核子と呼ぶが、核子はさらに3つのクォークと呼ばれる素粒子からできており、これが物質の最小の構成要素である。(と現在では考えられている)

この世界に存在するすべての物質は原子からできていることを考えれば、つまるところ物質の最小の構成要素である素粒子の性質がわかればこの世界はどのようにできているのかということを突き止められるかもしれない。

素粒子を研究するということは物質の根源に迫るということなのだ

素粒子の種類は1つではなくいくつか種類があり、標準模型と呼ばれる理論でまとめられている。

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標準模型素粒子は実は1種類じゃなくていろいろある。

 

レプトンと書いてあるのは電子の仲間で3種類あるニュートリノレプトンである。e、μ、τの3種のレプトンはどれも-1の電荷を持つが、ニュートリノ電荷も持たなければ質量もほぼ0 であるためほとんどの物質もスカスカすり抜けてしまう。

ほとんどの人にとっては「電子は知ってるけどμ粒子やτ粒子なんて知らねーよ」

って感じだろう。これはμやτは電子に比べて質量が重く不安定なのですぐに崩壊していまうためである。

クォークと書いてあるのが陽子や中性子のような物質を形づくっている素粒子である。右にあるボソンというのは相互作用を媒介する粒子であり、ヒッグスと書いてあるのは物質に質量を与えるヒッグス粒子という割と最近(ようやく)見つかった粒子である。

また、クォークレプトンにはそれぞれ電荷などの物理量が反転して反粒子というやつがいる。例えば電子の反粒子陽電子というプラスの電荷を持つもので、電子の陽電子が出会うと対消滅してエネルギーに変わる。我々が普段反粒子を見かけないのはこの世界は粒子の数>反粒子の数であり、反粒子が生成されてもすぐに対消滅して消えてしまうからだ。SFとかで好まれそうなネタだ。

反粒子が発見の歴史は…...などなどと全部説明しているときりがないのでこれくらいにしておいて、ここでは核子とそれを構成するクォークに注目してみよう。

クォーク強い相互作用の話

陽子や中性子などの核子は3つのクォークから構成されている。

uクォーク2個とdクォーク1個から構成されているのが陽子で、uクォーク1個とdクォーク2個から構成されてるのが中性子である。

上の表を見るとuやd以外にもbとかtとかいろいろあるが、これら前述のμやτ同様質量が大きくすぐに崩壊してしまうので自然界でではなかなかお目にかかれない。

これらの重い粒子は加速器を用いて人工的に創りだすことで実験で初めて発見されたのである。(ただしμ粒子なんかは実は宇宙線として空から降ってきたりしている)

 

原子核の周りを電子が回っているのは電磁気力によるものだが、クォーク同士や陽子と中性子同士は強い相互作用と呼ばれる力で結びついている。

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3つのクォークグルーオンと呼ばれる素粒子を媒介として結びついている。

媒介として、というのは物理を専門にしていない人にはしっくりこないかもしれない。

例えば電磁気力を例に取ると、プラスの電荷を持った粒子とマイナスの電荷を持った粒子

には引力が働くが、素粒子論だとこれを光子をキャッチボールのようにやり取りすることで引力が働くと考える。光子というのはつまりは光のことである。光は電磁波という波であるが、素粒子の世界ではこれをひとまとまりの粒子のようにとらえ、「光子」と呼んでいるのだ。

同じようにクォークグルーオンと呼ばれる素粒子を通して結びついているのである。

 

さて光子と呼ぶとピンとこなくても、電子や光を知らない人はいないだろう。

しかしクォークグルーオン強い相互作用と言われても日常生活でそれを感じることはまずない。その理由は強い相互作用原子核内部のごくごく近距離でしか働かないからである。

原子核にくらべてずっと大きなスケールで生活いている僕らには日々の生活で強い相互作用を感じることはないのだ。

我々が日常生活で感じる「力」は重力を除き、すべて電磁気相互作用によるものだと考えて良い。

また、強い相互作用は力が働く範囲こそ狭いが、電磁気相互作用に比べてめちゃくちゃ強い。名前の由来もそこにある。

放射線被爆の恐ろしさも実はそのへんに密接に関連している。

我々が普段目にするような化学反応は原子核の周りを回る電子の反応であるが、放射線原子核の崩壊によって飛び出してくる粒子である。

したがって放射線は通常の化学反応と比べて桁違いのエネルギーを持っているため、人体に浴びてしまうとDNAを傷つけてしまうのである。これが俗に言う被爆だ。

放射線を理解するには原子核の性質を理解することが重要なのである。

 

ちなみに、中高校生時代僕は陽子はプラスの電荷を持ってて反発し合うはずなのに原子核が結びついているのはおかしくないか?とずっと思っていたが、これも電気的な反発力よりも強い相互作用のほうが文字通り結びつきが「強い」からである。

どんどん脱線してしまうが、この陽子と中性子は中間子と呼ばれる粒子を媒介として結びついており、この中間子の存在を予言してノーベル賞をもらったのがかの有名な湯川秀樹である。

 

クォークの性質をどうやって調べるか?

原子はとても小さいので顕微鏡で直接みることなんて不可能だった。そのため昔(といっても100年位前の)人はあれやこれやとがんばって原子の存在を立証したのである。*1ただ最近はからり技術が発達してきて、驚くべきことに原子のスケールでは実際に原子を顕微鏡で見たりつまんで動かしたりできるようになったらしい。IBMという企業が原子の配列を変えて世界最小のアニメーションを作ったのが少し前に話題になったが、これは本当にすごいと思う。

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↑原子の配列を変えて作った世界最小のアニメーション

 

ただ、原子に比べて原子核はさらに小さいのでこんなことはまだできない。

原子も原子核もどっちも小さいのでピンと来ないかもしれないが、原子に比べて原子核はめちゃくちゃ小さい。原子の大きさがだいたい{ \displaystyle 10^{-10}}mなのに対して、原子核の大きさは{ \displaystyle 10^{-15}}mくらいなので5ケタ違う。よくある例えだと、原子が東京ドームだとすると原子核の大きさはその中に置かれた一円玉くらいの大きさだ。

さらにやっかいなのはクォークの閉じ込めと呼ばれる性質だ。

電磁気の場合はプラスの粒子とマイナスの粒子を遠ざければ遠ざけるほど力は弱まるが、グルーオンの場合クォークの距離を引き伸ばせば引き伸ばすだけ結合が強くなるバネのような性質がある。

クォーク核子から取り出そうとするには無限のエネルギーが必要となってしまい、もはや小さいうんぬんの話ではなく、クォーク1個を取り出して見ることは原理的に不可能なのだ。

これでは八方塞がりであるが、これらを打開する手が実は一つだけあるのである。

 

つづく。

 

*1 このへんの原子の発見の歴史はめちゃくちゃ面白い。「だれが原子をみたか」という本がおすすめ。原子の発見の歴史がわかると改めて熱力学や統計力学というものが楽しくなるだろうと思う(僕はなった)。今でこそ熱=原子の運動というのが常識となっているが、実は熱力学の理論が確立したのは原子の発見よりも前なのである。熱力学が原子の存在を過程しなくてもマクロな物理量だけを使って体系的に成り立っているのはとても興味深い。このへんは田崎晴明さんの「熱力学」「統計力学」なんかがおすすめ。